まっしろ


まっしろ



それはまっしろな雪のようだった。
冬は嫌いだ。
そう言った自分が恨めしかった。
それは、まっしろな雪のようだったのだ。


知らず震える手を掴んだ。
爪を立てて、己の手を傷つけた。赤い痕が残った。
緊張する理由はない。
「あーそーぼー」
精一杯の声。


小学生男児よろしく、精一杯張り上げられる声。
シーツを広げ、寝る用意をしていたチスイスイは驚いてモニターを見た。
画面いっぱいに広がる深緑と、甘い蜜。
手にしたシーツとモニターを交互に見比べた。


何でこの人、オレが寝ようとすると来るんだろう。いびり?
いっそこれなら、勝手に部屋に上がりこまれた挙句、
「今夜は寝かせない」
とか陳腐なコトを吐いて、嬲られる方が幾分かマシな気がする。
…。いや、それもゴメンだけど。


シーツをきちんとたたんでマントを羽織った。
ひとつ、大きな欠伸をしながら。


外へ出ると、突き刺すような日の光。
青い空に白い雲。
「暑…っ」
チスイスイがぼやく。
「なんや弱いなぁー。」
けらけらと笑う宇治金TOKIO。
繋いだ手は暑かった。
出来るのならば振り解きたかったのだが、そうする理由も莫迦らしいものだったので、止めた。
「何処に行くんですか?」
「海。」

ああやっぱりか。

チスイスイは胸中でため息をついた。
宇治金TOKIOが「遊ぼう」と言って誘うのはいつも海。
「今日はチスイスイはん泳げる?」
子供のように輝いた目を向けられた。
どうにも、チスイスイはこの目に弱かった。
「いえ。無理です」
即答するチスイスイに宇治金TOKIOが頬を膨らませた。


凪。
風もなく、波もなく。
「あーらー。」
「サーフィン、出来ませんね。これじゃ」
海に着いた二人の前には、波ひとつない海が広がっていた。
チスイスイはやれやれと言った風に肩をすくめて、ビーチにパラソルを差した。
「どうしますか?」
座り込んだチスイスイの真正面に立つ宇治金TOKIO。
「泳げへんねんなぁ」
「まぁ。」
「何で?」

投げかけられた問い。
問いも、そうだけど。答えはもっと莫迦らしいものだ。

「日焼けして…、肌が赤くなってしまうし…」
答えてよいものか、戸惑いながらも出す答えに、宇治金TOKIOは腕を組んで聞いていた。
「日の光は苦手だし…、痛いし…」
しどろもどろ。
「だから…なんですけど」

わしゃわしゃ。

「チスイスイはんは、…まぁ、せやね。うん。せやせや。」
宇治金TOKIOはチスイスイの頭を撫でながら、勝手に自己完結している。
頭を撫でている手を振り払うべきか、勝手に自己完結している事にツッコミを入れるべきか。
そんなチスイスイの葛藤が伝わったのか、宇治金TOKIOは笑った。
「チスイスイはんは。ワイを見ていればええ。」
それは陳腐なプロポーズと酷似していた。
チスイスイは眉根を寄せた。
「な?」

それはまっしろだった。
雪のように、夏の雲のように。
まっしろで、触れてはいけない気がしていた。

チスイスイは宇治金TOKIOの手を取った。
握った手は、やはり暑かった。
「貴方だけ、ですか?」
意地悪く笑うチスイスイに、宇治金TOKIOは頷いた。
「ああ」


まっしろな君を、まっくろにはしたくないのだけれど。
それでもやはり、見ていてほしいのだ。


砂のお城。
その頂上には旗の代わりに、桜色の貝殻。
「うん。こういうのも楽しいですね」
桃色の服は、砂で汚れていた。
日の光を浴びて、綺麗に輝く金色が、薄汚れていた。
「子供みたいや」
宇治金TOKIOの呟きを聞きとめて、チスイスイが反論した。
「それを言うなら、言い出しっぺのTOKIO様の方が」
「あ、チスイスイはん」
宇治金TOKIOが名前を呼ぶ。
何事かと思うと同時に唇に柔らかい感触がした。
「してへんかった」
悪びれもなく言ってのける宇治金TOKIOにチスイスイは言葉を失う。
「TOKIO様…ッ」


まっしろな雪のようだ。
実際、雪のように冷たい手を持っている。
だけど、それはあくまで比喩だ。
彼は、雪のように白いだけだ。

白い君を、白いまま留めておくには。
どうすればいい?






















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後記

一生いちゃついてろよ!
そんなTOKIチス。
最速さんは夜行性=日に当たらない=白い
と言うことで。


日焼けして真っ赤になるってなんだか格好悪いですよね…!
夏の日差しは格別に痛いのが、嫌で仕方がない。(夜行性だから)