蜘蛛 網を張って待つだけでは、無理なんだ。 風に乗って、貴方の元に行かなくちゃ。 灰色をみた。 嗚呼、愛おしい人。 お待ちになって。 私を共に連れて行って。 「嗚呼」 長い髪は風に揺れていた。 灰色は、手の届かない領域へ、行ってしまった。 「如何為されましたか?レディ?」 振り返れば、灰色。 闇を身に纏った、灰色がいた。 「貴方は誰?」 問いかけた。 別に、答えは求めていなかったのだけど。 灰色は、目を細くした。 笑ったらしい。 灰色はくるりと身を翻した。 そして、指を一つ鳴らす。 パチン…ッ 途端。 ソコには無かった筈の『テーブル』と『イス』。 何処から出たのか、そこにあった。 テーブルの上にはいい匂いを振りまくクッキーと、 湯気立ち上らせる、熱々の紅茶。 灰色は、にっこりと笑った。 『あの人』には無い笑顔。 「ねえ、レディ?」 灰色は問いかけた。 私は極上の笑顔で応じた。 「寂しいのですか?」 「ええ、そうよ」 灰色は哀しそうな顔をして、目だけを、笑みの形に作り変えた。 その奇妙さに違和感を感じる。 灰色は、今度は口角を吊り上げて。 顔にあるパーツ全てを使って笑った。 穏やかな、笑顔。 「オレもそうなのだよ。レディ。」 嗚呼、貴方は何を求めているの。 「そうだね、レディ。一つ提案がある」 「何かしら?」 私が問うと、灰色はにっこりと笑った。 灰色は、笑ってばかりだ。 「一緒に、如何ですか?」 言って、ティーカップに並々と紅茶を注いで此方に向けた。 灰色の瞳を覗いた。 どんよりと、曇っていた。 私は小さく息を吐く。 これは、ため息でも、感嘆の息でも。何でも無い。 ただの、呼吸。 スカートの端を掴む。 灰色に向かってお辞儀。 「よろこんで」 言うと、灰色はつかつかと近寄ってきた。 何をするのかと、見ていた。 スッと手を取り。 手の甲にキスを贈られた。 「ありがとう。レディ?」 くらり、眩暈がした。 灰色は、消えていた。 ************************************* 後記 風蜘蛛で最蜘蛛。 シャイナ姉さん大好き! 彼女は絶対ミーハーな子だと信じて疑いません。 姉さん可愛い。大好き。