夜月




夜 月


夜に出る月は、綺麗だと思えなかった。
それよりも昼に出る太陽が好きだった。


煌く太陽。
輝く海面。
白い砂浜。
それが自分に与えられた世界。
「ハニー♪今年は宇治金時がクるぜーv」
「イヤーーーーー!」

ドンッ

「ごふぅっ」
突き飛ばされて、砂浜に埋まる。
毎日毎日、食べて貰うために鴨を探しては付き纏う。
それが、日常。

「ちぇ。結局今日も売れ残った…」
海に向かって小さな貝殻を投げた。
毎夜毎夜、落ち込んでは海に八つ当たる。
夜が、嫌いだった。
夜と言う世界にいると言う事は。
売れ残っている。
と言う事と同じ事だったからだ。

「ん?」
高い岩陰に、人影を見た。
長い長いマントを羽織っいた。
月光に映える、銀色の髪。
「あ」
向こうも此方に気付いたらしく、此方を見た。
そして、微笑んだ。

「何やアイツ…」
気が付いたら立ち上がっていた。
ソレのいた方を見ていたが。
もう人影は無かった。


夜に映える存在を見付けた。


それから、宇治金時はソレを探して。
昼の仕事をサボって、夜毎海へ行った。
何故自分がそんな事をしているのか。
そう疑問に思いながら。
「あ…」
海の家からあまり離れていない所に、ソレはいた。
が、見付けた時にどうするのか、考えてもいなかった為。
何をどうして良いのか解らず、ただ立ちすくんだ。

「アンタ、いつも夜歩き回ってんだな」

ソレが、自分のことを言われているのだ、
と気が付くのに一瞬の猶予を必要とした。
宇治金時は慌てて頷いた。
「まあな。」
「オレの事探してたんだろ」
言うとソレはにやりと笑みを浮かべた。
「別に…?」
「顔に書いてあるけど?」
「う…」
「何?何か欲しいのか?」
ソレは淡々と会話を進めた。
無駄な抑揚も何も無く。
異様さを感じさせられた。

宇治金時が、欲しいものと言えば。

自分を買って食べてくれる人

なのだが、ソレが自分を買って食べてくれるとは思えなかった。
宇治金時が悩んで唸っていると。
「兎に角、夜に出歩いてちゃダメだ。特にアンタみたいなのは」

言うと、ソレはくるりときびすを返し、歩き去ってしまった。


その翌日。
ソレと会って話した場所に向かったが。
ソコで見たのは、一匹のコウモリが羽を広げて飛び立つ姿だけだった。



「ちぇ。アイツ…」
宇治金時は手近にあった小石を思いっきり蹴りつけた。
話し相手くらいにはなりそうなヤツだった。



夜に出る月は、未だにキレイだとは思えない。
それでも、月光に映えるあの色は綺麗だと思った。
昼に出る太陽は未だに綺麗だと思う。
それでも、陽光ではあの色は映える事は無いんだと解った。





















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後記

毛狩り隊に入る前の宇治さんとチス。
出会っていたのならこんなん希望。

この頃から最速に惚れていたらいいよ。
そして最速の方はそれを忘れているといい。

最速=吸血鬼。を強く主張。