あなたがとなりにいるということ


あなたがとなりにいるということ


目を閉じて。
さあ、心を静めて。
創造して。
貴方に起こりうる全てを。


手を伸ばしたら届く距離にいる。
ソレは確かめなくても解る、明白な事実。
それでも、彼は…宇治金時は手を伸ばした。
本当は相手の頬に触れたかったが手が届かず、袖に触れた。
それに気が付いて、相手は微笑んだ。


消え入りそうな君をどうやって現世に繋ぎとめよう。
「チスイスイはん…。」
宇治金時は小さく隣に座る、愛おしい人の名を呼んだ。
「何ですか?」
小さく、聞こえないように言った筈だが、聞き取られた。
チスイスイはにこにこ笑って、宇治金時を見ている。
宇治金時はにかっと笑った。
「好きやなぁ思てな。」


二人で歩く道。
それが何処までも、続けばいいと思う。
目的の場所に付かなければいいと思う。


えーん えーん えーん…

子供の泣き声が聞こえた。
見ると、白と黒の布。
質素な花束。
黒一色に染められた衣服。
「葬式…ですかね。」
「せやろなぁ。ご愁傷さんや。」
子供の泣き声は止まらない。
大方、親か、友達が死んだのだろう。

どちらにせよ、関係の無い話。

「死…か。」
チスイスイが呟いた。
遠い目をしていた。
「……」
宇治金時は掛けるべき言葉を捜す事が出来ず、
ただ、チスイスイを見つめるだけだった。


日の光を受けて、消えてしまうのではないか。
月の光を受けて、消えてしまうのではないか。
心はいつも不安定で、ずっと君が消えないように祈っている。


「もしも…」
「?」
「もしもオレが死んだら…」
チスイスイが遠い目をしたままそう呟いた。
宇治金時ははっとした。
隣にいる、このモノが消えてなくなるのではないか、と。

「嫌って下さい。」

理解不能だった。
何といった?
嫌う?
何故。

チスイスイはようやく遠い目を止めて、
照れたような笑顔を浮かべた。
いつもと同じ、その笑顔がどうしようもない程に、不安定に見えた。


「嫌う事なんて、」
デキルワケガナイジャナイカ。
そう続く言葉を、何故か飲み込んだ。

「嫌って下さい。お願いします。」
チスイスイは尚もそう言った。
宇治金時はチスイスイを睨み、顔を伏せた。
考えが読めない。
その目は、何を映しているのか、見えない。

「何でやの。」
それでも、聞きたかった。
チスイスイはにっこりと微笑んだ。
「死んでから、好きだなんて言われたくない。」
宇治金時は数秒、理解できなかった。
が、目を見開いた。

理解した、そんな気がした。

「死んでからじゃ、遅いから。『好き』って言葉は。
 でも、嫌いって言葉は、遅いも、早いも関係ないから。」
せめて、生きている間は幸せで。
あなたの隣にいたいから。
『好き』だけを、貰いたい。

『嫌い』は死後でいい。


そう、チスイスイは言った。
宇治金時はチスイスイにしゃがむ様に命じる。


ぱしっ。


両頬を手で挟みこむ。
目を見る、自身を映す、目を。

「死ぬ時は、一緒や。嫌う暇なんてあらへん」

そう言って、宇治金時はチスイスイを解放した。
チスイスイはぷっと吹き出して、そのまま笑った。


消えてしまいそうな君をどうやって現世に繋ぎ止めよう。
散ってしまいそうな君をどうやって救い出そう。
解るのは、自分があまりにも心配性で、君があまりにも儚いって事。


「そうですね。そんな暇ありませんね。」
チスイスイは笑った。
宇治金時も、つられて笑った。

二人で歩く道。
この道が永遠に続けばいいのに。
そう願ってやまないが、いつか、途切れる。
「宇治金TOKIO様」
「?」
「愛しています。」
「ワイもや。チスイスイはんより、ずっと、ずっとな」


消え入りそうな君を繋いで置こう。
頼りない、愛で。
強く、強く繋いで置こう。

あなたのとなりにいるってことは、そういうことだ。





















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後記

TOKIチスでもチスTOKIでもどっちでも。

よく解らない方向性を秘めていますが、一応ラブラブ志向で。
関西弁は解りませんから。吸収男児(素敵誤字/違)に
関西のおしとやかな雰囲気を求めないでくれたまえ。
いや、本当に困るよ。関西弁本当困るよ。萌。(結局そう落ち着くのかよ。)

チスイスイさんはいつか蒸発すると思います。(言葉まんまの意味で。)