否定することで、気付かないフリをしていた。
否定していると言う事に気付かない様にしていた。
それは、変化を嫌うが故?
それとも、恐怖を感じたせい?


風が、吹く。
冬の冷たい風は身を切り裂くかのようだった。
手にした大きな鋏。
銀色に輝き、対峙した相手にその存在だけで恐怖を与える。
そんな鋏を手にしている。
「莫迦らしい。」
視線の先には黄色いアフロと青い心太とオレンジの何か。
離れるタイミングが掴めず、未だに行動を共にしている。
そんな自分が莫迦らしい。
それに関して何も言ってこないボーボボも莫迦らしい。
OVERはそう何とはなしに思った。


全てに意味があるかと聞かれたら、きっと迷う事無くその問いを否定するだろう。
事の意味など、後から付け足せばいいだけだ。
それは感情であっても同等ではないだろうか?


「OVERちゃんがザクロ食べてる!」
「あぁ?」
振り向けば、青い身体をぷるぷると震わせて、驚愕の表情を浮かべる心太がいた。
「何てこと!天ちゃんびっくり!」
よく見れば、天の助の表情には驚愕だけじゃない。
何か、嬉しそうな…そう、イタズラが上手くいった子供のような。
そういったものも入っていると見受けられた。
「うるせーよ。」
OVERが言うと天の助はどこから取り出したのか、
フリルの沢山付いたエプロンを身に纏い、
「まっ!OVERちゃんったらそんな言葉きいて!天子ママ悲しい!」
OVERは手にしたザクロを地に置き、入れ替わりに鋏を構えた。
「うるせーって言ってんだろ」

さくっ。

言葉と同時に鋏を振り下ろす。
さっくりと、天の助は二等分にされた。


その行動に何かあったとしても、自分はその何かに惹かれる事は無いだろう。
何故なら自分は、何者にも惹かれない自信があったからだ。


天の助は、数分もしない内に身体を元に戻し、
OVERがザクロを食べるのをじっと見ていた。
「OVERは果物好きなのか?」
何度目なのか、数えるのも莫迦らしいが、
天の助は何を思ったのかOVERを質問攻めにしていた。
OVERもいい加減そんな天の助が鬱陶しくなり、問答に応じ始めていた。
「まぁな。」
「なら、この天の助様の甘〜いライチ味を食してみるかね。」
天の助はいそいそと巨大な皿の上に横たわってトッピングと言わんばかりに
その辺に生えていた雑草を自身に添えた。
「……………」
OVERは思わず黙りこくった。
無視しようかどうしようか迷ったのだ。

はぁ。

大きなため息をついた。
相手に聴こえるように、嫌味を含めた、大きなため息を。
「ライチは好きでもテメェは食う気がしねぇ。」
「何でさ!一口だけでも食して下さい!」
そういうOVERに天の助は勢いよく頭を下げた。
まるで族の下っ端が頭とすれ違ったときのように。
OVERは頭を下げ続ける天の助の頭を鷲掴んだ。

ヒッ…

小さく漏れた悲鳴はOVERに何かを齎した。
「お願いしますお願いします、そういうだけで上手く世の中渡ってきたつもりか?
 オレはそういう輩が嫌いでね。吐き気がする。」
冷酷に言い放った。
天の助は動かない。
否、動けない。
「そんなつもりじゃ…」
いきなりの展開に天の助は戸惑い、上ずった声をあげた。
「オレはお前を食わない。」


何かを他人に求めたとして、願い通りに行かなかったら失望する。
そういう事に飽きてきたのなら、他人に願いを託さなければいい。


天の助はOVERから離されて、安堵と共に不安を感じた。
これを、不安と一口に言い切っていいのかすら良く解らないが。
何故かOVERに言われるとそれが世界の全てのように感じる。
無論、実際はそうではないのだが、天の助は、そういつも感じていた。
一生自分は今のままだと、そう告げられたような気がしたのだ。
「何で…」
天の助はOVERを見据えた。
声が震えそうになる。
「何で食べないんだよ。」
否定して。さっきの事は冗談だと軽く言い流して。
いつもみたいに鋏で斬られてもいい。だから。

「お前が嫌いだからだよ」


冷たいものは何がある?
氷に北風、雪や雨。
君が本当に冷たいものに触れたとき、君が信じていた世界は崩壊するだろう。


OVERはそう言った自分の声を他人事のように聞いた。
天の助は項垂れて、小さく笑った。
歪んだ、笑顔だった。
「そっか…」
OVERは鋏を担いだ。
それを見止め、天の助が微かに身構えた。

が、

OVERはその隣を何も言わずに通り過ぎた。
天の助は暫く身構えていたが、OVERの殺気が遠ざかるのを認めると構えを解いた。

構えを解くと同時に。
「何だよ…」
涙が毀れた。

身を斬られるよりも強い痛みを感じていた。






















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後記

OV天と言い張ってみる。
自分の理想は殺伐としたカプ。何ですよ。OV天は。

単にOVERに『お前が嫌い』と言わせたかっただけとも言う。
OVERは基本的に天の助が嫌いですが、何だか気になる。
気になるから嫌い。大嫌い。

と言う脳内設定。