夏が、終わる。


夏が、終わる。




夏が終わろうとしている。
まだまだ暑い日々は続くだろうし、太陽も夏気分でいるだろうけれど。
それでもカレンダーを見ては落ち込んでしまうのだ。
8月が終われば、夏ももう。


沈んだ顔をしている。
無言で隣に腰をかけると、彼はこちらをそっと見やった。
頬を撫ぜていく風は未だ夏の熱気を帯びている。
「今年も、だなんて言わないで下さいね」
「何のことや」
彼は口を尖らせてそう返した。
「貴方はもう、貴方だけの物じゃありませんから」
言って笑顔で彼を見る。
彼はこちらと目を合わせないようにする為か、そっぽを向いた。

「チスイスイはん」
「何でしょう」
「ワイ、本当に誰かに買ってもらいたいねん。
 してな、美味しいって言うてもらいたい」

そっと小さな手が自分の手の上に重ねられた。
暖かな手。
誰かに買って貰いたいだなんて、そんな願い
「知っていますよ。だから俺が隣に居るんじゃないですか」
自分が叶えたい。

彼が一瞬キョトンとした顔をした。
「TOKIO様」
彼の名前を呼ぶ。
「ねえ、今年もだなんて」
「言わへんから、大丈夫やって」
苦笑を浮かべて彼が答えた。
「TOKIO様」
彼がこちらを見つめている。
気恥ずかしくて、まっすぐ彼の目を見ることが出来ない。
「俺が、言いますよ」
願い事なら全て。


毎年、彼はこの時期になると沈んでしまうのだ。
売れ残ったという事実が、彼を何年もたった今も苦しめている。
でも、誰かに買われてしまっていたら自分は彼と出会えなかった。
彼は食べられてしまい、もしかしたら死んでしまっていたかも。
だが彼にはそんなことはどうでもよく、売れ残った事実だけが胸の奥にトンと残っている。

食べろと言われたら喜んで食べましょう。

買い取れと言われたら喜んで買い取りましょう。

俺が貴方の隣に居るための理由が出来るなら。

「チスイスイはん」
「何でしょう」

きっと彼はまた来年も再来年も、これからもずっと沈んでしまうのだろう。
その度に自分は彼を励まして、隣に座っていられたらと願う。

「夏が、終わるなあ」

夏が終わる。




今年も売れ残ってしまっただなんて言わないで。
貴方の欲しい言葉なら、自分が全部あげるから。
夏が終わっても隣に居させて。
そしてまた、一緒に夏を迎えたい。





夏が終わり、季節が巡る。







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夏が終わる度にTOKIO様はションボリしてそうだなって話。