4月16日、あなたへ


4月16日、あなたへ




カレンダーに赤く大きな丸印。
4月16日、この日は大事で特別な日だ。


「チスイスイはん、スターセイバーはんにプレゼントあげへん?」
「は?」


意味が分からない、と言った風なチスイスイを見て、チッチッチと指を振る。
宇治金TOKIOは、部屋を無駄にぐるぐると回りながら言う。
「だって、スターセイバーはんの誕生日やし」
チスイスイが小さく声を上げた。
誕生日を祝う習慣など無いためすっかり忘れていたのだ。
「今から買いに行くんですか?もうお昼ですよ?」
当日の。
「まあ、なんとかなるやろー」
言い出した本人はいたって気楽に構えているようだった。
チスイスイは胸に不安を抱きながら質問を重ねる。
「何をプレゼントするか、決めていらっしゃるので?」
宇治金TOKIOは、ニヤリと笑って答えた。
「全然」


 時々、この人が何をしたいのか分からなくなるなー…
太陽が傾き、空は青色からピンク、オレンジ色のグラデーションを作っていた。
元気よく歩いていく宇治金TOKIOの後をチスイスイはトボトボと歩いた。
よく共に3狩リヤを組み、行動を共にするとはいえ、相手のことをよくは知らないのだ。
スターセイバーはあまり、自分のことを語らない。
チスイスイが必死に探ろうとしても、「ああ」とか「そう」とか気の無い返事で会話を絶たれてしまう。
宇治金TOKIOはその姿を見て、
「スターセイバーはんはきっと、背中で語るタイプなんやろな。かっこええなぁ」
なんて笑っていた。
実際はかっこいいとかそんなもんじゃない。
話題を振る側としては、必死で探し出した話題をスッパリと斬られてしまうのだから。
扱いにくいことこの上ない。
「TOKIO様、どうするんですか?」
プレゼント。
何せ自分を語ろうとしない者に贈るプレゼントだ。
何を贈れば喜ぶのか、見当が付かない。
 っていうか、オレはあいつがどういう生活をしてるのかすら見当が付かないんだがな…。
チスイスイがため息をつくと、宇治金TOKIOもひとつため息をついた。
「ううん。さっきから考えとるんやけど、なかなかなぁ……」
がっくりと二人で肩を落とした。
 無理だ。だって、あいつのこと何もしらねーもん。
「とりあえず、ケーキ買いませんか?誕生日といったらケーキですよ」
チスイスイが言うと、宇治金TOKIOは小さく頷いた。

「ありがとうございましたー」
フリフリのメイド姿の店員に見送られ、店を出る。
正直、男二人でケーキ屋に入ると言うのはかなり気恥ずかしいものだった。
小さな腕でぎゅっと大事そうにケーキを抱く宇治金TOKIOの顔は穏やかだ。
空を仰ぐと、もう星がちかちかと瞬こうとしていた。

辺りの店をキョロキョロと見回して、適当なプレゼントを探す。
店の奥で店主がレジカウンターに座り遠い目をしている。
「TOKIO様、ちょっと待っていてください」
言い置いて、チスイスイは遠い目をしていた店主のいる店へ入っていく。

カロンと小さくベルの音がした。
独特の匂いが鼻についた。
「ああ、すみません」
チスイスイは腰に手を当てて、言葉とは裏腹に偉そうな態度で店主に話しかけた。
店主は無言でチスイスイを見返した。
いらっしゃいも何も言わない。
チスイスイは構わず、壁に取り付けられた棚の一角を指差して言う。
「あれ。あの青い―――」


優しく抱きしめた白い箱。
ふわりと香るケーキの甘い香り。
甘いものが好きな宇治金TOKIOはその香りだけで笑顔がこぼれた。
「お待たせしました」
上から言葉が降ってきて、視線を上げた。
チスイスイが片手に袋を持っている。
「プレゼント?」
聞くと、
「プレゼントです」
チスイスイはニコッと笑った。


「何ですか」
 夜遅くに。
空のど真ん中に真っ白な月が昇っている。
スターセイバーは目の前で正座をしている二人に静かに問いかけた。
宇治金TOKIOとチスイスイは無言で自分たちの向かいに座るよう示した。
スターセイバーは首を傾げながら二人の向かいに座った。
二人につられて正座をし、ゆっくりと二人を見やる。
「今日は、何月何日やったかなぁ」
宇治金TOKIOがふざけた様な口調で問いかけてきた。
すっと、チスイスイの方を見やる。
答えない。
スターセイバーは眉を顰めながら答える。
「4月16日ですけど…?」
カラカラ、と音が鳴りふすまが開く。
「料理をお持ちしました」
言って、女性店員がそっとすしと天ぷらを置いて部屋から出て行った。
料理をじっくりと見ている時、パアン!と景気の良い音が鳴った。

「…っ」

顔を上げ、目をパチパチとさせる。
先ほどまではなかった筈の、イチゴの乗った可愛らしいケーキがある。
ホールケーキの真ん中には、「Happy Birthday」の文字。
スターセイバーがきょとん、としていると向かいに座る二人が声をそろえて
「誕生日おめでとう」
と笑っていった。
スターセイバーは小さな声で、礼を言った。


三人で食事をして、ケーキを切り分けて。
スターセイバーはチスイスイと宇治金TOKIOが話しているのを、向かいで聞いていた。
甘いとろけるようなイチゴのケーキ。
甘いものは少しだけ苦手だが、不思議と美味しく感じられた。
「ありがとう」
心の中で呟いたつもりだったが、声に出してしまっていた。
スターセイバーは手で口を覆い隠した。
チスイスイと宇治金TOKIOは、「どういたしまして」と照れくさそうに笑った。

一人ぐいぐいと酒を飲んでいた宇治金TOKIOは、酔いが回ったのかすやすやと大の字になって眠っている。
「そうだ、これ」
そっと差し出された袋を受け取る。
「開けてもいいぜ」
片手をひらひらと振るチスイスイを見て、袋をそっと開ける。
青色のタオル。
「お前さ、あんまり話さないじゃん?何が欲しいかなんてぜーんぜん分からなかったから」
「ああ」
「そんなんでごめんな」
「そんなんって…、いや、嬉しい」
いつもと変わらぬ顔でタオルを手に取るスターセイバー。
嬉しいなどと口に出しているが、本当にそう思っているのかどうかはチスイスイには分からなかったが、
「大事にする」
スターセイバーのその一言は、きっと嘘じゃないんだろうな。と思うことにした。


カレンダーに大きな赤い丸印。
大切な、大切なあなたの生まれた日。


スターセイバーは空色のタオルとイチゴのホールケーキを見て、小さく笑った。




...Happy Birthday!!










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スッチー誕生日おめでとうのお話。
…、ちゃんと祝えてない気がしますが。

スッチーが無口でチスとTOKIO様とあまり会話をしてなかったら、
可愛いなあっていう設定で。