キスをして

キスをして







軽すぎる「好き」より
重すぎる「愛してる」より

もっと楽に。







とりあえず、困っています。
今日は何の日だ。いや、なんでもいい。どうせ良い日ではない。
隣には、チスイスイがいる。
紅茶を啜りながら本を眺めている。
いつもなら、それだけで幸せな気分だった。

朝起きたら、体に異変が起きていた。
視点はいつもより高く、いつもは手が届かず踏み台を使っていた場所にも手が届いた。
頭を掻くと、ごわついた髪に指が触れた。
鏡を見るとそこには知らぬ顔が映っていた。
幽体離脱をして誰か知らない人の体に入ってしまったのか、それともこれはドッキリなのか。
宇治金TOKIOは頭を抱えて悩んだ。
 そうや、今日はチスイスイはんの所に行く約束をしてた
ふと思い出す。
時計を見て、顔が青ざめた。
約束の時間まで、あと10分だ。

時間には間に合った。
着る服が見当たらず、近くの店で一式買い揃えた。
生まれて初めて、理容室を利用した。
走る体が重かった。


「チスイスイはん」
肩を叩きながら声をかけた。
どうせ彼は自分のことに気がついていないはずだから。
怪訝そうな顔で振り返ったチスイスイに、宇治金TOKIOは
「ワイが、誰だか解る?」
と意地悪そうな笑みを浮かべて言った。
チスイスイは眉を寄せ、恐る恐ると言った風に言葉を発する。
「もしかして、貴方は     」


いつもなら、チスイスイの肩に手は届かない。
背伸びをしてようやく届く、と言った程度だ。
いつも視界に映るチスイスイは、日の光を受け輝いて見えた。
腰を屈められてようやく、対等になったと感じた。

それが今日はどうしたのだろうか。
肩に背伸びをせずに手が届く。
日の光は柔らかく、顔が近くに見れた。
若干こちらが低いのだが、腰を屈められなくても、対等になったと感じられた。

体がヒューマンタイプになっただけで、こんなにも違うものなのか。

宇治金TOKIOは新鮮な感動を覚えていた。
どうしてこの姿になってしまったのかは、解らない。
最初にこの姿を見たときは不安で仕方が無かったが…。

 別に、この姿もいいもんやなぁ…。

ヤろうと思えばヤれる。
体がヒューマンタイプでなければ出来ない事など、数え切れないほどあるのだ。
チスイスイと付き合い始めて、極めて健全な交際をしてきた。
互いの部屋へ行った事もあるが、何事もなく時が過ぎていっていた。
いつものあの姿ではキスをするのにも抵抗があったが、今なら自然と出来るのではないだろうか。
隣を見る。
紅茶を飲み終えたチスイスイが、こちらを見て微笑んだ。

意識してしまうと、止まらない。

普段から、自分はこんな態度を取っていただろうか。
チスイスイの目に自分はどう映っているのだろうか。
それより何より。
 キス…って、どうするん…?
昔、海の家に居た頃に読んだ雑誌には「ムード」が大事だとと書いてあったような気がする。
あくまで、気がするだけだが。
星が綺麗だね。
室内で、しかも昼間という今の状況では言えない。
では、「君は今日も綺麗だ」と言って見ようか?
いや、チスイスイはきっとそう言われるのは嫌うだろう。
チスイスイはそういう人間で、宇治金TOKIO自身チスイスイの美麗さに惚れた訳ではなかったから。

あれは違う、これも違うと考えている内にチスイスイが宇治金TOKIOの手を取っていた。
「嗚呼、信じられない。TOKIO様のあの白い小さな手が……
 ほら、手の大きさ…変わらないくらいになってる」
言いながら、チスイスイは宇治金TOKIOの掌を自分の掌と合わせていた。
「ワイの方が、大きいんやないかな」
「ん…」
チラとチスイスイを見る。
頬がほんのり赤いのは、自分の勘違いだろうか。
合わせた手を、絡みとって体を引き寄せてキスをしよう。
そう心の中で呟くが、チスイスイの手は宇治金TOKIOの手が絡め取る前に離れてしまった。

「なあ、チスイスイはん」
チスイスイは、宇治金TOKIOの顔を真正面から見つめた。
宇治金TOKIOは、スッと小さく息を吸い込み 言う。
「キス、してええ?」
アレだコレだと考え込むより、直球で行ったほうがいい。

暫し、沈黙。

離れてしまった手を、引き寄せた。
チスイスイの顔が、微かに歪んだ。

「そんな こと……聞かないでください…っ」

擦れて、消えてしまいそうな声でチスイスイはそう答えた。
宇治金TOKIOは、口元を緩ませて優しく微笑んだ。





―――まずは、その紅色に染まった頬に接吻を。








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擬人化時チス乙女ラブストーリー〜純情派〜
もう、この子たちがいちゃいちゃしてればそれでいいと思う。

擬人化でなくても良い話でしたが、擬人化で書きたかったんだもん…。
(もうこの人全体的にノリで書いてるから…ッ!)