たべられる





たべられる






食べ物って、誰かが口にして。
「おいしい」
って、言うてもらうんを、待っとるんやないんかなぁ。






毎日毎日、売れ残って。
誰にも食べて貰えない。
仕舞いには、看板立てられて、避けられる。
ただ、ただ。一口でいいから食べて貰いたいだけなのに。




「やっぱり、寒いですよ。まだ」
彼は言った。
文句を言いながらも、食べてもらえる嬉しさは、言葉では表せなかった。
Fブロック基地の外れ。
菜の花は咲き乱れ、桜の木々は蕾を膨らませている。
春。
何時からなのかは、もう覚えていない。
彼といると、息苦しい。
それでも、彼と一緒にいるのは。
本能が、「食べられる」ことを良しとしているからか。
「上手いやろ?」
そう言うと、彼は苦笑した。
空を見上げた。
ツバメが、空を切り裂くように飛んでいった。



ただ、「食べて」貰いたいだけかもしれない。






          *




食べ物だからって、誰かに食べられるのを待ち望んでいる輩ばかりではなかろう。
お主の様に、食べても食べても減らないのなら兎も角。
わしのようなもんは、食べられたら…




毎日毎日、鍛えて。
誰にも食べさせない。
仕舞いには、祭り上げられていた。
ただ、ただ。生き延びるために鍛えていたのに。




ランバダちゃんは、何してるかな…
ため息一つ。
平和な世界は、体が腐りそうになるほど、暇だった。
やる事が無い。
日に日に増えていくトレーニング量。
今日は、ソレすらやる気が起きなかった。
ふと、振り向くと鏡がある。
顔に付けられた、無数の傷。
痛みなど、もう感じないけれど
「痛々しい…」
声が漏れた。
自分の独り言にため息で返して、窓の外を見た。
木蓮の花弁が、ひらりと落ちた。



もし、自分が食べられていたらどうなっていただろう?






          *




「あんさん、ほんまに一回も、そう考えた事ないん?」
宇治金時は首を傾げて問いかけてきた。
Fブロックの外れ。
先ほどからツバメが世話しなく飛んでいる。
近くに巣でもあるのだろうか。
「無いといえば、それは嘘になるだろうが…」
そういうと、宇治金時はニヤニヤと笑った。



散歩をしていて、偶然会った。
少し話をしようと、この場所まで連れられた。
幹部同士、話をすることもあったが、二人きりで話すコトは無く。
最初は気まずい空気が、漂っていた。
何を話せばいいのか。
何から話せばいいのか。
宇治金時は、部下の自慢をしていた。
ハンペンは、部下に対する接し方について話した。
考え方が、まるで違っていた。




自分には、自分を食べてくれる人がいる。
そして、幸い。
食べられる時に痛みを感じた事が無い。

「お主は、食べられても痛くないのか」
「何で?」
まるで質問の意味が解らない。と言った表情の宇治金時。
ハンペンは自分の顔を指差して、言う。
「例えば、わしの場合。顔を食べられる事になるだろう?
 顔を齧られて、痛くないはずがなかろう」
すると、宇治金時は「ああ」と呻いたような声をあげた。
「そりゃ、痛い時もあるわ。
 でも、そんなんとは比べもんにならんくらい、気持ちええねん」
手を広げ、ぎゅっと自身の体を抱きしめた宇治金時を見る。
目は閉ざされているが、口は笑みの形をとっていた。
「気持ちいい?」
ハンペンは顔をしかめた。
理解不能。
「せやー。だって。食べてもらえるんよ?」
宇治金時は、目を輝かせて言った。
それでも、ハンペンは顔をしかめたままだった。






          *




食べ物ってヤツはよ、誰かに買われてようやく、幸せになるんだと思う。
そりゃ、食べてもらいたい気もするけど。
自分自身を食べてもらうより、同士を食べてもらいたいんだよ。






毎日毎日、売れ残った。
誰も見てくれない。
仕舞いには、たったの10円にまで値下がりして。
ただ、ただ。買って欲しかった。




「はーい。今日のおやつはところてーん」
遠くからブーイングが聞こえる。
「テメー調子に乗ってんじゃねーぞ!」
首領パッチからコンペイトウを全力で投げられた。
コンペイトウが青い体を突き抜ける。
本気で痛い。
「うわーん痛いよー」
泣きながら、逃走を図った。

暫くして、回りを見渡す。
誰もいない。
走りすぎた?
体の中に埋まるように残っていたコンペイトウを一つ摘まんで、口に放り込む。
淡い甘さが口に広がった。
甘いものを食べ、安心したからか、力が抜けた。
その場にペタンと座り込んで、暫く口の中のコンペイトウをコロコロと転がして遊んだ。
指先に、梅の花弁が触れた。



自分が食べられるのなら、何処で、どんな人に食べて欲しいか。何て考えてみていた。






          *




「ちょ、まって 溶けるってそれ絶対溶けるってば!」
天の助が悲鳴を上げる。
近寄ると、微かに柚子の香りがした。
「大丈夫か?」
ハンペンが問いかけると、天の助は
「まあね」
と言って体を起こした。
「流石に、柚子ぽんをかけられた時は本気で死ぬと思ったけど」
ハンペンは肩をすくめた。
そして、ふと思いついたように問いかけた。
「お主は、食べられたいと思ったことはあるか?」
天の助はきょとんとした顔でハンペンを見つめた。
そして、少し考えてから「何で?」と返す。
ハンペンもまた、少し考えてから「なんとなく」と答えた。
天の助は少し、笑って語る。
「そりゃ、食べて貰えるのなら、食べて欲しいけど。
 怖くねぇ?
 食べられちまったら、オレ死ぬかもしれないんだぜ
 死ぬくらいなら、食べられなくてもいいって感じもするし
 逆に、食べられるために生きているんだから、食べられなくちゃって感じもするし。
 売られていた頃は、買って欲しいって事で頭がいっぱいで。
 そこまで考えが回らなかったんだよ。
 今だって、今が凄く楽しいからそんな事考えない。」
ハンペンは腕を組み、言う。
「お主は、直ぐに元に戻るだろう」
死ぬ心配など、しなくてもいいように見えるけど。
心の中で付け足した。
天の助は、うーっと唸った。
「うーん。でも、何時かは元に戻れなくなると思う。」
確信はないけど。天の助は陽気に笑った。






          *





「今度は一緒に、暖かい物でも食べませんか?」
彼は言った。
「ええなぁ。」
同意した。
彼が、何か一緒に食べようと言った時は、いつも彼の奢りだ。
「ただし」
人差し指を突き立てて、眉根を寄せ彼は言う。
「口直しに宇治金時…ってのは無しですよ」
思わず、噴いた。
彼があまりにも真剣な顔をして言うものだったから。
つられたのか、彼も一緒に笑った。
ふと、空を見上げると桜の花が咲いていた。


「幸せもんや、ワイは。」
零れ落ちた言葉を彼は拾い上げる。
「幸せなのは、貴方だけではありませんよ」
彼の言葉を聞いて、頷く。
ああ、そうだった。






          *




「聞いた話なんやけどな。
 誰も、同じ事を考えていないらしい」
レムは話の途中で寝てしまった。
ランバダは気が付いたら姿を消していた。
宇治金時は、ほとんど独り言の様に話をしていた。
レムなら、寝ながらでも話を聞いていられるんじゃないかと考えて。
「下らんな。」
声のした方を見ると、何時の間に帰ってきたのかランバダがいた。
「考えが変わるのは当たり前だろ。」
呆れられたようだった。
宇治金時はため息をついて、ランバダから視線をそらした。
先ほどまではなかった、タオルがレムに掛けられている。

「なあ、ワイを食ってみいひん?」
宇治金時が照れながら言う。
答えは、ポリゴンで返ってきた。

それでも何故か、悔しくはなかった。


「よし。クッキーも食べ終えたし。
 そろそろ行きますか」
宇治金時は背伸びをして言う。
ランバダの顔に疑問符が浮かぶ。
宇治金時は人差し指を立て、左右に振って見せた。
「解散や、解散。」
「何処に行く気だ?」
ランバダが問う。
宇治金時は考えた振りをして答える。




「ワイを食べる人のところ。」





強い春の風が吹いた。














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後記

これと言ったオチがない。
因みに、田楽の子は
「共有の話題を有するための、一つの手段」
だとか思ってればいいと思う。
友達になるには会話から!
互いを知らなくても語れる話題は、料理。


関西弁解らないんだぜ…!